歯科衛生士ブログ
認知症と口腔ケア
近年、「口腔環境」、言い換えると「口の中の状態」が認知症の発症に大きく影響しているのではないか、とする研究が発表され、話題になっています。
人は年齢を重ねるにつれて、身体のあらゆる機能が衰えていきます。口腔についてもそれは同様で、高齢者の方は次のような課題を抱えがちである、と言われます。
高齢者が持つ口腔内の課題
・口腔自体が持つ「清潔に保とうとする力」が低下
口腔には本来、「清潔に保とうとする力」があります。
唾液の力で歯の表面や舌、粘膜などについた汚れや細菌を洗い流すのです。
しかし、高齢になると唾液の分泌量が減少し、「清潔に保とうとする力」が低下する傾向にあります。
・虫歯や歯周病が多い
加齢によって歯茎が下がり、歯の根元があらわになることで、そこから虫歯が発生しやすくなります。
口腔自体の「清潔に保とうとする力」が弱まり、唾液の分泌が減ることで、洗い流されるはずの細菌が増殖、歯周病にもかかりやすい状態にあるとも言えます。
・治療跡や入れ歯が多い
高齢者の方は長く生きている分、虫歯や歯周病にかかった経験も多いケースがあり、そのため詰め物などの治療跡が残っている方も少なくありません。
詰め物をしている場合は、その下で虫歯が進行していることも多いですし、入れ歯を使用している方の場合、入れ歯と歯茎の間で細菌が増殖しやすくなったりもします。
3つの可能性が指摘されています。
1つ目は「咀嚼回数の低下」。
咀嚼回数が低下すると脳の認知機能への刺激が少なくなり、結果として認知機能の低下が起こり、認知症を発症しやすくなるのではないか?という意見があります。
2つ目に「食べられるものが偏る」という問題もあります。
歯がないと、食べられるものに偏りが出ます。その結果、ビタミン類の摂取が不足し、その結果認知症を発症しやすくなるのでは、と言われています。
3つ目に「歯周病」が挙げられます。
歯を失うということは、歯茎がむき出しの状態にあるということ。
そして歯周病を患い、慢性的な炎症を起こし、血液を介して脳に悪影響を及ぼしているという説もあります。
また、歯を失う、認知症を発症するリスクが最大で1.9倍になる可能性があるという研究結果が発表されました。
だからこそ、よく噛んで、バランスよく食べること。
そして、それができる口腔環境をキープすること。
それこそが、認知症予防にも効果的。口腔環境を清潔にすることと、口腔の機能を保てるようにすることの2点に意識して、お口から健康に長生きできる身体を目指していきましょう。
どうして永久歯の前に乳歯が生えてくるの?
皆さんはもう、おとなの歯に生え替わりましたか?
子どもの歯のことを「乳歯」、おとなの歯のことを「永久歯」と呼びますが、どうして、最初から永久歯が生えてこないのでしょう?
「乳歯」と「永久歯」ってなに?
子どもの歯「乳歯」は、生後6か月から8か月にかけて、下の中央から生えてきます。
それから徐々に生え揃っていき、人それぞれに差はありますが、2歳半〜3歳くらいになると、全ての乳歯が揃ってきます。
その後、6歳前後になると、永久歯が生えてくるようになります。
永久歯の歯並びがそろうのは、9〜12歳くらいにかけて。人によっては、20歳を過ぎてから奥歯に「親知らず」が生えることもあります。
やっぱり、わざわざ「乳歯」が生えてから「永久歯」が生えてくるなんてめんどくさい!
すぐに永久歯が生えてくればいいのに…と思う人もいるかもしれませんが、それには、実は理由があるんです。
まず「乳歯」が生えてくる理由
人間はみんな、生まれてすぐは赤ちゃんです。
母乳や粉ミルクを飲んで成長します。
この頃は、歯は必要ありません。
1歳頃になると、ミルクだけでは栄養が足りなくなり、もっと栄養価が高い「食べ物」を食べる必要が出てきます。
そのため、食べ物を噛んで、細かくするための「歯」が必要になるのです。
ところが、おとなの歯である永久歯は硬く、できあがるまでに5年以上の時間がかかります。
そのため、まずは小さめで、エナメル質や象牙質の厚みが永久歯の半分で、すぐに使える乳歯が先に生えてくるのです。
この乳歯を使って、子ども時代はご飯を噛んだり、細かくしたりするのです。
それから、ようやく丈夫な永久歯に生え替わりが進み、さらにおとなのアゴの大きさと筋肉の強さに適した永久歯の歯並びが完成するのだそうです。
ちなみに、乳歯も永久歯も、生えたばかりは弱く、虫歯になりやすいのだとか。
永久歯が生えたら、ていねいに歯みがきして、長く使えるようにしましょうね。
⻭間部清掃について
⻭間部清掃とは
⻭間部清掃とは、文字通り⻭と⻭の間を清掃することです。
⻭間部清掃に使う道具としては、主に「⻭間ブラシ」と「デンタルフロス」が挙げられます。テレビCM等でもよく宣伝されているため、使ったことはないけれど耳にしたことはあるという人が多いかもしれません。平成28年の調査では、⻭間ブラシやデンタルフロスを頻繁に使用している人の割合は、おおよそ30%でした。国の方針では、40〜50歳における使用率の目標を50%としているので、やや少ないのが現状です。
⻭間部清掃の効果
⻭間部清掃には、どれほどの効果があるのでしょうか。
⻭ブラシで磨いただけの場合、⻭と⻭の間のプラークは約60%しか除けないというデータがあります。⻭ブラシで念入りに⻭をみがいたとしても、⻭と⻭の間には多くの汚れが残り、虫⻭や⻭周病の原因になるということです。それでは、⻭間部清掃を行った場合はどうでしょうか。
図の通り、デンタルフロスを使うと80%程度、⻭間ブラシを使うと85〜95%のプラークを除去することができます。
⻭間ブラシ
⻭の根元などの、広い隙間を清掃するのに使うものです。
ポイント
・⻭肉を傷つけないよう、まっすぐ挿入し、ゆっくりと動かしましょう。
・ドラッグストアには様々な商品が置いてあります。自分の⻭にあった、適切な太さのものを選びましょう。
・奥⻭の間は通しにくいため、ブラシの先端を折り曲げるなどの工夫をしましょう。あらかじめ角度のついたものも販売されているので、ぜひ、⻭間ブラシ売り場を良く見てみてください。
デンタルフロス
糸ようじとも呼ばれ、⻭と⻭がくっついている場所等、狭い隙間を清掃するのに使うものです。
ポイント
・⻭肉を傷つけないよう、無理やり差し込まず、ゆっくりと動かしましょう。
・詰め物や被せ物に引っかかってとれてしまわないように注意しましょう。
・ただ隙間に通すだけではなく、隣り合った⻭それぞれの側面を磨くようにしましょう。
いつもの⻭みがきにひと手間加えるだけで、⻭の健康を保てます。ぜひ、「⻭間部清掃」もしっかり行ってみてください!
「ことば」と「口」の深い関係
おしゃべりが止まらない時、「お口にチャック!」なんて言ったりしますよね。
多くの方は、お話をする際には口を使っています。
でも、ただ「あー」とか「うー」では、相手に言いたいことが伝わりません。
私たちは無意識のうちに、口で発する「音」を、相手にも伝わる「ことば」に変えているのです。
ことばが口から出てくるまで
ふだん、あまり考えることはないかもしれませんが、人がお話をするには、いくつかのステップがあります。
まず、頭の中で伝えたい、言いたい内容に合う単語を選択します(例:私、食べる、リンゴ、いま)。
次に、文法どおりに並べます(私はリンゴをいま食べたい)。
そして、このことばを音声に変換する作業に進みます。
こういった作業を、私たちは頭の中で無意識にやっている、わけです。
ことばを話すためには、音を作り出す口唇・舌や下あごなどの器官に、脳から指令を送ります。
指令を受けると、私たちの身体は肺から息を出し、のどぼとけにある声帯(せいたい)をふるわせて声を作り、最後に舌の形を変えたり、口を動かすことで、思い通りのことば(=音)を作ります。
この音を作る過程を「構音(発音)」と呼びます。
でも、音を作る器官やその動きに問題があって発音がうまくできない状態を「構音障害」と言います。
構音障害の原因はいくつかあります。
一つ目は病気やけがのために、音を作る時に使う器官が欠損したり、形が異常なために適切な音が出せないケース。
二つ目に、思い通りに舌や口を動かせず、発音に支障をきたすケース。これは脳卒中やパーキンソン病など、発音に関わる動きをコントロールする神経の病気が原因で起こることが多いようです。
しかし、上記のような明らかな原因が見つからないというケースもあります。
こうした構音障害の治療は、「言語聴覚士」(げんごちょうかくし)というお仕事の方が担当することがほとんど。
しかし、障害によっては歯医者さんが発音を補う装置を作ったり、手術を行うといったこともあります。
当たり前のようですが、「ことば」と「口」って、深い関係があるんですね。
実は「あの人」も、歯が悪かった?
苦しみから生まれた作品も
虫歯や歯周病で歯が痛い…というのは、現代人ならではの悩みではなく、昔の人たちも、同じように歯の痛みで苦しんでいたようです。
「奥の細道」で有名な松尾芭蕉は、41〜44歳頃にこんな作品を残しています。
水を手ですくって飲もうとしたら、その冷たさが歯にしみる…という内容の俳句です。
これを読むと、どうも歯周病の疑いあり、と言えそうです。
さらに、48歳の頃にはこんな俳句も作っているのだそうです。
海苔(のり)を食べていたら、混じっていた砂を噛んでしまい、歯が痛くて衰えを感じる…という内容の作品。
芭蕉さん、歯のお手入れをサボっていたのかな…と思いますが、江戸時代の人の骨を調査してみると、ほとんどの人が歳をとるにつれて、ほぼ全ての歯がなくなってしまっているのだそうです。
その原因は、歯周病だと見られています。
ちなみに、同じく江戸時代を代表する俳人である小林一茶も
と、歯が抜けてしまって「なむあみだぶつ」と唱えたら「あもなみだ」になってしまうという作品を作っています。
皆さんは、歳をとっても自分の歯が使えるように、今からちゃーんとお手入れを続けましょうね。
口呼吸をしていませんか?
皆さんの中にはエアコンが苦手という人もいるのではないでしょうか?
しかし、「エアコンをつけると喉が痛くなる」、「朝起きたとき、喉がガラガラ」、このような人は、エアコンだけの問題ではないかもしれません。
呼吸は鼻でするもの
本来、哺乳類である人間は、鼻で呼吸を行います。
そのため、鼻は呼吸に適した構造になっており、いくつかの重要な役割を持ちます。
1.ホコリやウイルスの捕獲
これは、鼻毛の効果によるものです。
ほこりやウイルスを捕獲することで、きれいな空気のみを体内に送り込めるようにします。
2.湿度の調整
これは、鼻水の効果によるものです。
鼻水は1日に約1リットルも分泌されていますが、なんとそのうちの約7割は、鼻を通る空気を加湿するために利用されているのです。
3.温度の調整
鼻で呼吸した空気は、体温で温められ、温度が35〜37℃にもなります。
口での呼吸では、ここまで温度は上がりません。
冷たい空気を送ると、肺の免疫力が低下するリスクがとても高くなります。
気づいたら喉が痛い、それは口呼吸になっているというサインかもしれません。
⻭への影響
口呼吸は、口内トラブルの原因にもなります。
1.口臭や着色の原因になる
人間は、1日に1〜1.5Lの唾液を分泌します。
なぜこれほど多くの唾液が必要なのでしょうか。
その理由のひとつは、唾液に抗菌作用や殺菌作用があるということです。
しかし、口呼吸をすると唾液は乾いてしまい、その役割を果たすことができません。
そのため、菌が繁殖し、口臭や⻭の着色が発生してしまうのです。
2.虫⻭や⻭周病の原因になる
先程お伝えしたように、口呼吸をすると口の中で菌が繁殖しやすくなります。
また、⻭は「酸(酸性)」に弱いです。
通常は唾液が酸を中和してpHを調整するのですが、口が乾いていてはこの役割も果たせず、⻭が溶けてしまいます。
3.⻭並びが悪くなる
⻭は、「舌からの圧力」と「頬や唇の筋肉からの圧力」のバランスがとれる位置に並んでいます。
そのため、口呼吸をしていると「頬や唇の筋肉からの圧力」がかからず、出っ⻭や受け口になってしまう傾向があります。
エアコンが苦手なそこのあなた。もしかしたら、苦手なのはエアコンではなく鼻呼吸なのかも??
⻭にも悪影響があるので、口呼吸に気づいたら早めに対処するようにしましょう!
お口の健康に役立つ食べ物
よくかんで食べる事の大切さ
健康な歯を守るためには、食べた後の歯みがきや、定期的に歯医者さんで診察してもらうことが大切。
加えて、日ごろの生活でも、できることはあります。
それは「よくかんで食べる」こと。「かむなんて、いつもしてるよ!」と思うかもしれませんが、ほんとうに「よくかんで」食べているかどうかは、わかりません。
よくかんで食べると、だ液が分泌(ぶんぴつ)され、食べ物のカスや細菌を洗い流してくれます。
例えば、根菜類、だいこんやごぼう、にんじんなどは、歯ごたえがあるのでGOOD。
また、おやつに煎った大豆やナッツ類を食べるのもオススメです。
見逃せない「歯ぐき」の健康
歯を大切にするのはもちろんのこと、歯の土台になっている「歯ぐき」も大切にしたいですね。
歯ぐきの健康に役立つ食べ物って、どんなものがあるのでしょう?
歯ぐきの健康に役立つ栄養素は「ビタミンC、E、B2」「食物繊維」など。
ビタミン類は血流をよくすると同時に、粘膜(ねんまく)の修復にも役立ちます。
また、食物繊維が豊富な食材は、かむことで歯ぐきのケアにつながるのだとか。
「歯ぐきの健康に役立つ食べ物」は、具体的にはリンゴやカリフラワー、ブロッコリー、小松菜などがあげられます。
こうした食べ物を意識的に食べて、歯と歯ぐきの健康を守り、いつまでも楽しく、おいしいものを食べ続けていきたいですよね!